こんなにも残酷で綺麗な作品『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』【レビュー/感想】
初めてソーシャルディスタンスが良く思えた
まったく関係ないような見出しで始まりましたけど、実際に劇場に足を運んだ方には共感できるのではないでしょうか。
コロナ対策によって座席が1つずつ間隔が取られ、前後左右に空席がある状態で観ることになっています。
つまり、隣同士で肘掛の譲り合いをしなくてもいいんです!堂々と鎮座することができるんです!あの気まずさ故に作品に集中できなかった過去もあります…
まぁそんなこともありつつ、間隔が取られていることで安心してゆったりと観ることができたので、今回泣き崩れた、いや泣き溺れた醜態を晒すことなく劇場を出ることができたので、ソーシャルディスタンス様様でした。
とある女性の人生譚
・劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
公開:2020年9月18日
原作:暁佳奈「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
監督:石立太一
主題歌:TURE「WILL」
愛する人へ送る、最後の手紙。
感情の持たない少女、彼女は道具だった。
戦争という状況の中で彼女は、両手を失い、大切な人を失った。
「心から、愛してる」
その言葉をその大切な人から告げられたが、理解できない彼女は戦争が終結してもなお想い続け、その言葉の意味を探し続けた。
そして彼女はその意味を知るために、自動手記人形となった。
彼女の名前は、ヴァイオレット・エヴァーガーデン。
これは1人の女性の人生譚である。
--------
戦争が終わり数十年。
産業が発達し、以前までは代筆業にあたる女性たちを自動手記人形、通称ドールが華やかに活躍していた時代から、電話へと移り変わり、彼女たちは過去の出来事であった。
とある家庭のおばあちゃんが亡くなった。
亡くなった彼女の名前は、アン・マグノリア。
アンが小さい頃に母親を亡くし、一人懸命に生きて幸せな人生を過ごしたアンを支えたのは、亡くなった母親から毎年届く手紙のおかげである。
50年分という膨大な数の手紙を、これから自分が面倒を見ることのできない我が子のために、代筆を依頼して書いてもらったのだ。
アンの孫デイジー・マグノリアは、仕事で忙しくなかなか相手をしてもらえない母親に厳しくあたってしまう。本当はそんな接し方はしたくないはずなのに、素直に気持ちを伝えることができない。
そして、彼女は見つける、アンに届いた50通の手紙を。
そこには、母が子を想い書き綴った手紙と共に、一人の女性の新聞の切り抜き記事があった。その記事の女性が気になり、デイジーは一人で彼女の軌跡をたどる旅に出た。
C.H郵便社の自動手記人形、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの軌跡を。
--------
ヴァイオレットは、自動手記人形としての腕を認められ、海にささげる祝詞を書くまでになっていた。だが周りからの評価を気にせず、ヴァイオレットはギルベルトへの届かない想いを募らせている。
時代は流れ、ライデンの街には大きな電波塔の建設が始まり、電灯や電話が少しづつ普及し始めていた。
代筆で多忙なヴァイオレットに一本の電話がつながる。
電話の相手は一人の少年、ユリス。
ちょっと横柄な感じであったが、ヴァイオレットはお客様がお望みならば、何処へでも駆けつける自動手記人形としてその依頼を受けることに。
向かった先は病院。病室に入り、代筆の確認をしていると足音がする。どうやら家族がお見舞いに来たようだが、ユリスはヴァイオレットに隠れるように指示した。
急いでベットの下に隠れ、その場をやり過ごしたヴァイオレットはユリスの命が残り少ないことを知る。ユリスは自分が亡くなった後に、家族に向けて手紙を書きたいと代筆を依頼したのであった。ヴァイオレットは以前受けた依頼を思い出し、ユリスが差し出した金額では足りなかったが、特別料金でその依頼を受けることにした。
時を同じくして、C.H郵便社にはお客様に届けられずに戻ってきてしまう手紙や荷物がたくさん保管されていた。ホッジンズとベネディクトはその倉庫を整理していると、一通の手紙を見つける。そこには見慣れた書体で書かれた手紙があった。
そのことをホッジンズはヴァイオレットに告げる。
消えかけた希望と可能性にヴァイオレットは心揺さぶられる。
手紙に貼られた切手を頼りに、ホッジンズとヴァイオレットはエカルテ島という島に向かうことに。
エカルテ島は大戦時はライデンの敵国領だった。若い働き手たちは戦争に駆り出され、いずれも帰ってこなかった。そのため、島には女子供と年老いた島民がいるばかりであった。
ライデンから汽車と船を乗り継ぎ数日、二人はエカルテ島に到着した。
島に着くと、島民が暮らす村に訪ね、ギルベルトを探した。ホッジンズがまず村の中へ行き、ヴァイオレットを外で待つように促した。
ホッジンズがギルベルトの事を聞いてまわると、どうやら偽名を使い教師として子供たちに教鞭をとり、村の手伝いをしているようだった。村人から学校の場所を教えてもらい、そこへ向かうと片腕を無くしたギルベルトが立っていた。
ホッジンズは再会の喜びを踏みしめ、ヴァイオレットのこと、ヴァイオレットが今でもギルベルトを想い会いたがっていることを伝えた。
だが、ヴァイオレットを道具として扱わないと言って引き取ったのに、結局戦争に駆り出してしまい、結果両腕を無くし、普通の女の子としての人生を歩ませてやれなかった後悔にさいなまれ、ギルベルトは会うことを拒否してしまう。ホッジンズが説得するが、意思は固く、今日の所は引き下がることにした。
そのことをヴァイオレットに伝えると、ヴァイオレットは走り出し、ギルベルトを探してまわった。先ほどの学校にはおらず、二人は探しまわった。
ようやく家を探し出し、大雨が降る中ヴァイオレットは扉越しに想いのたけを伝えた。
しかし、ギルベルトの心の傷は深く、再会することを拒否してしまう。
拒否されたことにショックを受け、ヴァイオレットは走ってその場を立ち去ってしまった。ここまでたどり着くまでの苦悩を知っているホッジンズは、会ってやれないギルベルトに向かって、「大馬鹿野郎!!」と叱咤し、ヴァイオレットの後を追う。
大雨でびしょ濡れの二人は、島の灯台の建物の管理等兼郵便局へと案内され、休むことに。そこに一本の電報が入る。ユリスが危篤という報せだった。
ヴァイオレットはユリスの依頼で、両親と弟に向けて手紙を書いていた。自分(ユリス)が危篤の時に手紙を渡してほしいと言われていた。だが、親友のリュカには手紙を書けずにいた。リュカへの手紙を書かずに島に来てしまったヴァイオレットは、手紙を書くためにユリスのいる病院へと向かうと言うが、島から出る船は終了しており、大しけの海を渡る手段がなかった。
そこでアイリスとベネディクトに手紙の配達と代筆を頼んだ。
病室に着くと、ユリスは苦しそうにしていて、家族と医師に囲まれて最期の時を迎えようとしていた。アイリスは早速代筆をしようとユリスから言葉を聞こうとしたが、自分ではうまく書けないと分かったアイリスは、ベネディクトと電話がつながる場所を見つけ出し、ユリスとリュカを電話でつなげることにした。
ユリスは最後の力を振り絞り、リュカにお見舞いに来ないように言ったことを謝り、そして感謝し、家族に見守られながら逝った。
島で事の顛末を聞いたヴァイオレットは、ギルベルトに会わずに島を出ると言う。
だがその前に、手紙を書いた。ギルベルトへの想いを書き綴った。
翌朝、島民が栽培しているブドウ畑の農機具を修理しているギルベルトに、兄のディートフリートが会いにきて、弟に対して負い目を感じていたことを伝えた。そこに、農機具のリフトに乗ってヴァイオレットからの手紙が渡された。
そこには、前を向いて歩き出すヴァイオレットの言葉と、愛してるの意味が少しは分かったことが書かれていた。その言葉をかみしめるギルベルトにディートフリートは、行けよ、と促しすでに出航している船に向かって走り出した。
船の上からギルベルトが向かってきていることを見つけたヴァイオレットは、居ても立っても居られず、海に飛び込み、ギルベルトがいる岸へと向かった。
ついに再会したヴァイオレットは、涙にあふれて思うように言葉が出てこない。
やっと理解した言葉を発することができない。「愛してる」が言えない。
そんなヴァイオレットを抱きしめ、「今も君を愛してる、ずっとそばにいてほしい。」と、月夜の海で結ばれることができた。
--------
デイジーはエカルテ島へと向かい、以前の灯台に会った郵便局から新しくできた郵便局を訪ねた。そこでヴァイオレットがその後、C.H郵便社を辞め、島で郵便業を務めて島民から愛されたことを聞かされる。その功績を讃え、ヴァイオレットはエカルテ島限定の切手のデザインとなった。
手紙が紡ぐ大切さを知ったデイジーは、両親に向けて手紙を書くことにした。
ヴァイオレットの人生を追体験したデイジーは、大切な人に想いを伝えることを学んだ。素直になれない自分とヴァイオレットを重ね合わせ、両親に書いた手紙には「愛してる」と、そう伝えることができた。
--------
構成が見事
まず冒頭からは、ヴァイオレットたちが生きた時代からおよそ60年ほど経過している時代でした。手紙から電話へと文明が発展し、ドールはすでに過去のものとなっています。そして、この物語の語り手として登場するのが、テレビシリーズ10話で登場したアンの孫のデイジーというキャラクターです。
そこで出してくるのかと、ずるい登場の仕方ですね。
アンとは違い、母親と少しギクシャクしてしまっている様子があり、その葛藤をアンに毎年届いた母親からの手紙と新聞の切り抜きによって、ヴァイオレットの人生を追体験し、変わっていくという流れです。
ヴァイオレットたちが生きた世界が無くなってしまっていることにちょっと悲しい気持ちになりますが、現代から見た過去をデイジーが記念館やエカルテ島を訪れることで、昔話的な構成となり、過去の出来事がものすごくいい意味でフィクションのように見えます。おそらくヴァイオレットはデイジーの時代には既にいないと思うので、そういった悲しい気持ちが少し和らいだ印象です。
泣くポイント・シーン
まずは冒頭のシーン。
テレビシリーズをご覧になった方には印象深いと思いますが、アンと母親の回ですね。その後日譚としてアンの葬式から始まるという何とも言えないシーンです。
アンが人生を全うしたんだな、という反面、亡くなったという気持ちで1泣きです。
続いて、ヴァイオレットがギルベルトに再会しようと雨の中、扉越しに想いを伝えるシーンからの、ホッジンズの「大馬鹿野郎!!」です。
これまで経験した出来事で感情を少し表現することができるようになったヴァイオレットが、やっと少佐に会うことができて想いを伝える機会ができたのに、会えない。
健気で素直なヴァイオレットに感情移入してしまいます。からのホッジンズ渾身の「大馬鹿野郎!!」です。親のような立場でいたホッジンズですが、この時ばかりはかつての友に向かって荒げた感情を出します。ホッジンズの株爆上がりです。
そしてユリスの最期のシーンですね。
登場シーンではわがままな子供という感じでしたが、それも自分の余命が少ないことを悟っての態度だったという事です。口では家族に伝えられなかった想いが手紙で分かった瞬間号泣です。なんて残酷で綺麗なシーンなんだ。
また、親友のリュカと会話するシーンでは、これまでの謝罪と感謝を伝えることができたユリスの顔で号泣です。個人的には一番泣きました。
最後はヴァイオレットとギルベルトの再会ですね。
画像はありません、見て確認してほしいです!
やっと会えたのに、手紙では書けたのに、「愛してる」が言えないヴァイオレットが足を手で叩きながら葛藤しているカットは想いを伝える大切さと大変さを表しているようでした。ハッピーエンドに勝るものはありません。
まとめ
テレビシリーズから外伝ときて今回の劇場版でしたが、全部泣きました。もれなく。
ヴァイオレットが特別な女の子から普通の女の子へと変わっていくのが、今回の劇場版で完結した感じです。ようやくといった感じですね。会えない、会えない、また会えない、からのハッピーエンド。おめでとうヴァイオレット。
泣き崩れるという記事を見ましたが、泣き溺れます。劇場にはハンカチではなく、バスタオルくらいもっていった方がいいです。
作画、構成、音楽、どれを取ってもさすが京都アニメーションといったところです。
京都アニメーションというと、2000年代初めからオタク層、若者向けの作品をやっているイメージだったので、ここ数年の支持層が広い作品によってまた一段と認知されるようになったと思います。
王道の泣きアニメをありがとう。
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』オリジナル・サウンドトラック 価格:4,400円 |
TRUE/『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』主題歌 「WILL」 価格:1,320円 |