非現実Blog

自然✖アニメ。子供の頃の感性を大事にしたい。そんなブログになる予定です。

いつでも捜しているよ『秒速5センチメートル』【レビュー/感想】

アニメはフィクションである

二次創作というのは、ほとんどが非現実的な要素をはらんだものであるといえます。

SFやファンタジーといったジャンルはもちろん、学園ものやラブコメといったジャンルでさえも、現実的ではなくコミカルに描かれるものがほとんどを占めています。

故に、受け取る側は自分に投影しながらも、どこか一歩引いて見ることができ、いい距離感を保つことができます。

 

逆に、リアルを追求した作品になると、物語自体に抑揚が付きにくく、どこかドキュメンタリーチックな作品になりやすい傾向にあると思います。そして、だいたいは大人向けの内容になるせいで、大ヒットとはなりにくいともとれるでしょう。

しかし、内容こそ良ければ、リアルを求めた作品は心にこべりつくように印象が残ります。

さらさらではなく、どろどろと。鬱になるほどに。

 

 

良作=問題作

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(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films



秒速5センチメートル

公開:2007年3月3日

原作:新海誠

監督:新海誠

主題歌:山崎まさよしOne more time, One more chance

どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。

「桜花抄(おうかしょう)」

東京の小学校に通う遠野貴樹篠原明里は、お互いに転校生ということもあり、どこか通じるものがあった。そして二人一緒にいることも多く、クラスからはからかわれる対象に。貴樹は明里と話す中で、桜の花びらが落ちる速度が、秒速5センチメートルだと知る。

だが、明里の父親の仕事の都合で小学校卒業と同時に明里は栃木へ転校し、それきり会うことがなくなってしまう。

小学校を卒業し半年が経った頃、貴樹のもとへ明里から手紙が届き、それをきっかけに、二人は手紙のやりとりを始める。

 

中学1年の3学期、今度は貴樹が鹿児島へと転校することになってしまう。それまでは会おうと思えば会える距離だったものの、鹿児島と栃木ではそう簡単に会うことが出来ない。

貴樹が鹿児島へ引っ越す前に、二人は明里の住む栃木で再会することを約束した。待ち合わせの場所は岩舟駅の待合室。

しかし、約束をした3月4日、関東では大雪となり、貴樹の乗った列車は途中で何度も長時間停車する。加えて明里に渡すはずだった手紙を駅のホームで風に飛ばされ無くしてしまう。

何時間たっただろうか、待ち合わせの時間はとうに過ぎてしまっている。深夜となり、待ち合わせの待合室に着くと、そこには明里が。

二人は雪がしんしんと降る中、一本の桜の木のもとへ向かい、花びらのように雪が舞い落ちる中、初めてキスをした。翌日、貴樹と明里は駅のホームで別れの言葉を交わし、二人はお互いに気持ちを抱えたまま別れた。

 

 

「コスモナウト」

鹿児島へと引っ越した貴樹は、高校生となっていた。

クラスメイトの澄田花苗は、中学2年の時に転校してした貴樹がずっと気になっていた。しかし、想いは告げることが出来ずにいた。

加えて、進路もまだ決まっておらず、趣味のサーフィンも上手くいかない。どっちつかずのままいることに区切りをつけるべく、花苗は貴樹に告白することを決意する。

 

ある日の帰り道、花苗が通学で使うバイクが故障してしまい、偶然にも貴樹と二人で帰ることに。その道中、花苗は想いを告げようとするものの、貴樹の見ている方向は自分ではないとしまう。二人の後ろから打ち上げられたロケットを貴樹は、遠くの誰かを見るように見つめていた。その姿をみた花苗は、自分の願いが叶うことはないのだと、その想いをそっと胸の奥にしまった。

 

 

秒速5センチメートル

社会人になった貴樹は、東京でサラリーマンとして働いていた。

3年間付き合っていた水野理紗からは「1000回メールしても、心は1センチくらいしか近づけなかった」と言われ、自身の心が彼女に向いていないことを見透かされてしまう。

がむしゃらに働いた反動もあり、貴樹は会社を退職。

 

明里も東京で暮らしおり、その指には指輪が。

婚約者との生活を送っていた。いつからか二人の行く道は遠く離れてしまっていた。

 

ある日、貴樹が外を歩いていると、踏切ですれ違った女性に明里の面影を見る。

その女性もまた同じく振り返ると、二人の間に電車が通過していく。貴樹はしばらくその場に留まるが、電車が通過した後には、誰もいなかった。

それを見た貴樹は少しだけ微笑んだ後、再び前を向き、歩き出す。

その日は桜の花びらが舞い落ちる日だった。

鬱アニメたる所以

理由はたった1つ。

ハッピーエンドではない、ということ。

 

秒速5センチメートル」は3編から成る短編集です。冒頭は出会いと別れ。中盤は片想い。ラストは現実を知る。

「桜花抄」まではいいんです。お互いに気になり出して、一度離れてしまっても会いに行く、気持ちを確かめ合う、といったようにまだ先がありそうな展開です。

「コスモナウト」あたりから雲行きが怪しくなってきます。貴樹がふわふわしてきました。どこか定まってないような、それでいて危機感もない様子です。

秒速5センチメートル」でダメ押しです。

仕事に明け暮れ、恋人とは淡白な関係からの別れ、明里の婚約からの出会えると思いきや出会えない。

 

普通の作品であれば、結末はどうであれ再会するでしょう。再会しないにしろ、主人公がもう少し明るい様子で終わるでしょう。

しかし、現実はそう上手くいきません。

これが現実の世界の話だとすれば、よくあることだと自分は思います。

初恋は必ずしも叶わない、街で偶然その人と出会わない、そして自分は決して順風満帆の生活ではない。

 

2016年に公開された「君の名は。」では、ラストシーンで、電車の中から見つけ出し、お互いに探しあって見つかるも、すれ違い、でも出会えたという結末でした。劇場で観た時、ハッと頭によぎったのは、「秒速5センチメートル」の結末でした。「これ、もしかしたら…」その不安を消し去るように、爽快な終わり方をした「君の名は。」はいい意味で大衆向けであったといえます。

新海作品の真骨頂

新海作品の真骨頂といえば、造形美です。

特に、光の描写が今までのアニメーションにはなかったような描き方をしています。

この作品では、雨と雪と桜の描写に注目しがちですが、新海作品全般に言えるのは、その注目すべき所を際立たせているのが、光の描写だということです。

実写よりも実写っぽい、と表現したらいいのではないでしょうか。

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(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

この桜のカットでは、車に反射する日光と桜の描写が見事です。木漏れ日も細かいですし、普通なら窓を平面的に描いて終わりのところを、桜の遠近感を出しながら描いています。

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(C) Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

このカットでは、太陽にカメラを向けた時に出る光芒が写り込んでいます。

その光芒もさることながら、その光に当たっている電線が所々見えなくなっていたり、フェンスに反射している描写は、なかなか細かいこだわりだと思います。

これは紹介しないといけない

この曲から作品を知ったという人もいるのではないでしょうか。

山崎まさよしOne more time, One more chance

 

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感想(19件)

実は楽曲自体、映画公開前にリリースしている、1997年発売山崎まさよし通算4枚目のシングルに収録されていました。

自分も調べるまでは知りませんでした。

あまりにも秒速のイメージがありすぎて、なおかつ歌詞が作品に合いすぎていたもので。

会いたくても会えない。いつもどこか探してしまう。まさに貴樹目線の歌詞で、作品のイメージにぴったりです。

まとめ

散々、鬱ポイントを紹介してきましたが、再放送のたびに見てしまう。

それほど印象深く残っているのは、やはり現実味のある内容だからだと思います。一歩も引けない、距離を保てない、どっぷりその土俵に入り込んでしまう。

ただこれは決して後味だけが悪くなる作品ではないと思います。貴樹の過ごした時間は、誰にでもあること。そこに美しい描写が加わることで、遠い日の記憶が美化されたような感覚になります。

あんなこともあったなぁ…とそう思わせてくれるアニメーションはなかなか出会えません。

 

そして、2020年12月29日26時20分から、テレビ朝日で放送されます。

深夜です、冬です、年末です。リアルタイムで見る人は、家族団らんといは言えないでしょうからご覧の際には、気合を入れて見ましょう!

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感想(14件)